メインスタッフによるトークイベント レポート
2011年8月5日、東京・池袋にあるシネ・リーブル池袋にて、『鋼の錬金術師 嘆きの丘(ミロス)の聖なる星』(以下、ミロス)メインスタッフ陣によるスペシャル・トークショーが開催された。登壇したのは、監督の村田和也、キャラクターデザイン・総作画監督の小西賢一、演出の夏目真悟、アニメーションディレクターの押山清高。作画スタッフがメインで招かれたこともあり、奔放なアニメーションが印象的な『ミロス』の舞台裏を、主に作画面から伺うことができた。
当日の司会進行を担当したのは、本作のプロデューサーも務めたボンズ・南雅彦。アナウンスとともに壇上に上がった4人だったが、思わず南が「固いなあ」と苦笑を漏らしてしまうほど、緊張していた様子だった。しかし、話題が制作中の裏話に移ると、次第に口も滑らかに。監督と作画の中心を担った3人だけに、お互いを信頼している様子が伺えた。
村田:監督を引き受けたときに、まず真っ先に思い浮かんだのが、小西賢一さんでした。彼は僕のジブリ研修生時代の同期で――とはいえ、これまで仕事をしたことは一度もないんですけども、いつか一緒に作品を作りたいと思っていたんですね。で、今回お願いしてみたら、奇跡のように「できるよ」と。で、その小西さんから「ぜひメインスタッフに」と推薦されたのが、夏目さんと押山さん。夏目さんは絵が達者な演出さんで、画面を抑える力がすごくある。一方の押山さんは、とにかくパワフルに、いろんなものが描けちゃうアニメーターで。今回はこの3人がひとつのチームになって――誰がどこまで、という境界線を引かずに一緒に仕事をしたという感じでしたね。
小西:そうですね。僕は総作画監督という役職なんですけども、一番手を動かして、鉛筆を走らせていたのは、じつはこの2人です。夏目くんがものすごい量のレイアウトを見てくれる一方で、押山さんは持ち前の画力で、とにかく手が動く限り描きまくる、みたいな(笑)。
夏目:押山さんは、けっこう感情を出す絵を描かれるんですよ。例えばミランダが刺されるシーンなんかがそうですけども、レイアウト修正のときに押山さんが入れていたミランダの表情が、「ちょっとやりすぎなんじゃないか」っていうくらい面白い顔になってて(笑)。
押山:そういう夏目さんは、レイアウトといって、いわゆる背景の土台になる絵を描かれてるんですけども、キャラクターを乗せやすいレイアウトを仕上げてくれたおかげで、僕と小西さんはずいぶん助けられたんじゃないかなと思います。
村田:夏目さんの画風はすごく独特なんですけど、一方で空間をしっかり把握できている。映画っぽいというか、どしっとした画面作りができる人なんですね。
小西:一番大変だったのは、やっぱり村田監督のコンテですかね。いったい何度恨んだことかっていう(笑)。確か最初にコンテを見たときに――村田さんはテレビの経験が豊富な方なので、「ちょっとテレビっぽいかな」と思っちゃったんですよ。で、「もっとこうしましょう!」と煽っちゃったところがある(笑)。
村田:「ありきたりなカットは描きたくないんだ」って、はっきり言われました(笑)。それで「そうか、頑張らなきゃ」と思っちゃったんですよね。小西さんと押山さんから「上手いアニメーターほど、描き応えがあるカットをやりたいんだ」って話を聞かされたので、「じゃあ、受けて立とう」と(笑)。
小西:ただ後から聞くと、村田さんというのは、そんなことを言わなくても大変なことをする人だったんです(笑)。まさに火に油を注いでしまったという(笑)。
押山:「もう止めてくれ」って言っても、止まらなかったですよね。
村田:はい、止まらなかったです(苦笑)。あと、大変なわりにドラマに貢献しないカットというのは、アニメーターにとっても徒労感があるという話も伺ったんですね。逆に言えば、描きおおせたことで映画が盛り上ったり、感動するカットであれば、多少大変でも構わない、と。そういうこともあって、制作の後半は作画チームの様子を伺いつつ、「このカット、やってもいい?」って話し合いながら作っていったように思います。
夏目:村田さんのコンテをさらに膨らませて、大変にしてくるアニメーターの方たちもいらっしゃいましたし(笑)。
村田:そうですね。そういう意味では、アニメーターさんたちが自発的に、どんどん膨らませていった結果として、エネルギッシュなフィルムになったんだと思います。
このあと、制作中にスタジオで流行していたのは、なんとケン玉だったこと(スタジオの壁には、誰がどれくらい上手くなったのか、記録する大きなグラフ用紙が張られていたとのこと)や先週、アメリカのボルチモアで開催されたファンイベント「OTAKON」でのプレミア試写会の模様など、トークは大盛り上がり。特にプレミア試写会については、当初1日だけだった予定が、予想以上のお客さんが集まったため、急遽、2日間に延長され(トータルで8000人近くの観客が集まったとのこと)、また上映終了後にはスタンディングオベーションが起こった、と話す監督の口ぶりからは、向こうでの盛り上がりがひしひしと伝わってきた。『鋼の錬金術師』が、日本国内だけにとどまらず、広く世界中で愛されていることを実感できる話題だった。また、監督が渡米の際に自作したTシャツ(赤地にエド、アル、ジュリアの監督直筆イラストが入ったもの)を披露すると、その絵の上手さに観客から驚きの声が上がるひと幕もあった。
「今回の『ミロス』は、繰り返し観ていただければ、その都度、新たな発見がある作品なんじゃないかな、と思っています。またこれまで上映されていなかった地域でも、新たに公開が始まります。この機会に、ぜひみなさんで『ミロス』の輪をもっと広げていってもらえると、嬉しいなと思います。引き続きよろしくお願いいたします」
(村田監督)